
満席だった。奥の左に掘れたスペースの席は見えなかった。手前の4人掛けテーブルにまだ料理の来ていない一人客がいたので、奥が埋まっていてそこに通されたのだろうと、今、文字を打ちながら。最近、12時過ぎだと満席になることが多いから、いつもの汁なし担々麺を食べるために13時に出たというのに。遠足だった息子はクツワムシみたいな虫を持って帰ってきた。
仕方がない。ベトナム料理くらい空いているネパール料理屋へ。ネパール料理ばかり食べていたせいで、ネパール料理屋だと思っていたが、表にあるのぼりに「インド料理」、店の外壁にも赤い筆文字「インド料理」。町中華の方は瓶ビールに枝豆だが、こっちはパパド。瓶ビールはネパールアイスビール。今日のパパドは狐色。普段はもっと色が薄い。5つくらいに手で割ってから、1枚づつ、かじって食べる。1枚取った手の袖口、ネイビーのトレーナー、擦れてほつれている。YouTubeを流している店内。音が止まって、静かな店内になった状態。パパドが歯でわられる音と、向かいの席に座った女性の咳。服に溢れた破片を拾い集めている。
カジャセットが運ばれて、人参ときゅうりで作られたハートの形が丁寧なことから、前回のシェフと違う人が料理していることがわかった。それだけではない。ジャガイモのクミン炒め、これも切り方が少し大きい。YouTubeからオーストラリアのCMが流れる。あばれる君がオペラハウスを尋ねている旅行記的なCM。ジャガイモだけでなく、全体的におかず、と言わず何か言い方があると思うのだが、それの量が少ない。品がいい量という印象。あばれる君はレストランに到着したようで、ワインか何かがグラスに注がれる音がする。オーストラリアか何かに乾杯、なんて言ったところで店員がスキップ。インド音楽。深いリバーブ。
品が良くなったのは量だけではなく、味。味も塩味がかなり抑えられている。少し足りないか。炒められたラム肉の透明な脂身は今日も噛んだ時に汁が広がって安心した。中央の潰し炒められた米の下に塩とスパイスが残るのだが、いつもこれで塩の量を見ている、食べ終えた皿には殆ど残っていなかった。
向かいの女性客が会計を終えたタイミングで、席をたちレジに向かう。途中、入ってきたインド系と思しき客のテーブルにはまだ料理が運ばれてきていないので、時間が掛かる、私と同じカジャセットなのだろうと思う。レジを対応してくれた店員の奥、キッチンの入り口、体格のいいエプロン姿が視野に入ったが、お札をしまうために手元に落とした視線のままドアの方へ振り返ってしまった。この店の掛け時計の位置はベトナム料理屋と同じ窓の上だ。