
飾りの人参の厚さが7ミリくらいある。しかも、2枚を合わせてハート型にするわけでもなく、ただ、斜めに輪切りにしただけ。飾りではない。料理中。料理の途中でまな板の横に置いてある様子。一目で今日のシェフがいつもと違うことがわかった。
午前中は新しくできるサウナのサイトの打ち合わせ。これが11時から。13時から新規案件の制作チームの顔合わせ。この間にさくりと昼食を取ろうと思ったが、サウナの打ち合わせが少し長引いたので出ず。昼ごはんに出たのは、顔合わせが終わった13時半過ぎくらい。午後はもう打ち合わせがないので、まあ、打ち合わせがあっても飲む時は飲むのだが、ビールを、と。ビールをメインに据えるようなランチ。少し味の濃いもの。いつもの町中華でもいくかと歩きながら、近所で唯一のスクランブル交差点で、「いや、カジャセットの硬いラム肉をかじろう」と思い、町中華に行くために道路の左側から右側に渡っていたのを、左側に渡り直した。
店内は食べ終わっていそうな、でも話したりなさそうなグループが2組。窓際の席、曇り空から覗く僅かな日が差しているテーブルに座る。向かいには女性2人客。ホールの店員はいつもビールを注いでから渡してくれる彼。水を持ってきたタイミングで、「カジャセット」と伝え、伝票のメモが8割くらい済んだであろうタイミングで、「あと、ネパールアイスビール」と伝える。
向いの女性2人はとてもよく喋っている。40〜50代だろうか。すごい早さと量で喋っている。午前中の顔合わせミーティングで時間が大分残って、何かある人いますか?というので、つい沈黙に耐えられず自分の自己紹介をしたときの10倍。速さと量が凄いので、一旦、本(佐々木敦の『佐々木敦による保坂和志(仮)』)を読むふりにして、リズムを聞く。小節や拍を跨いだリズムはない。素直に早いリズム。タタタン、タタタン、タタタタタタタンに言葉を置いたような。それでね、だれだれがね、あれこれしてこうなったの!のような。なんて思っていると、出身が美大だっていうような話になっていて。どこ出だっけ?という質問に対して、「タマ」と言うのが聞こえた。「タマ」。武蔵美と多摩美を並べて言うときに「ムサタマ」みたいに言ってた気はするが、「タマ」かぁ、と、少し得をした気持ちとビールを飲む。
運ばれてきたカジャセットの様子がいつもと違っていた。普段、皿の周囲4箇所にハート型にされた人参と胡瓜が東西南北(人参は南北、胡瓜は東西)に配置されるのだが、北に斜めに輪切りにされた人参と胡瓜が1枚づつ載っているだけ。たまにシェフが違って、少し飾りのこれに変化があることはあるが、ここまで雑、簡素なのは初めて。人参は大きくて、スプーンで掬うと、掬う部分と同じような形なのだが、少しはみ出すくらいに大きい。ふむ。人参を戻す。
他に違いが出てるかもしれないと皿を見渡す。ある。ラム肉を硬く炒めたパートに何か透明なもの。脂身に見える。あと、潰してカリカリに炒められた米の色もやや薄い。炒める時の油が少ないのか。ラムの脂身(かどうかは分からないが)、これは人参と違って想像できないので、少し期待をもって口に運ぶ。ふむ。いい。弾力がある。弾力があるのは外面が炒められて硬い膜のようになっているからで、中の脂身は柔らかく、溶ける。洗剤のジェルボールみたいな構造。空いたビールのグラスのふちにショウジョウバエがとまっている。グラスの奥まで入ったら潰そうかと思って眺めている。